「主要成功要因のヒントは「関係」の中にある」
ITC近畿会 松村信雄
ITコーディネータ&ITCインストラクタ
システム化で成功するために、的確な主要成功要因の抽出が鍵を握ることは言うまでもありません。
ITCプロセスガイドラインは、その手順を示してくれていますが、手順を誤らずに適用すれば、誰がやっても主要成功要因が抽出できるというようなものではありません。
だからこそ、このフェーズでITCの出番があるわけで、皆さまもそれぞれに、クライアント支援の際に、手順をうまく運用して主要成功要因を見つける「術」というものに工夫をされていることと思いますが、ここでは、私なりにクライアント支援の際に気を付けていることを、皆さまからのご批判、ご感想を聞かせてもらえる機会があることを期待しながら「主要成功要因のヒントは関係の中にある」と題してご紹介させていただきます。
経営戦略は結局のところ、経営組織を取り巻く内外の利害関係者との利害の結びつきのあり方という「関係」について、仕切り直しをしたり新たに開発することを通じて、その実現への道筋を考えることになりますので、主要成功要因の抽出には、この「関係」の見極めが重要な鍵をにぎります。
関係の見極めにあたっては、
(1) 関係の両端を同じ視野の中に取り込み、
(2) 関係を構成する要素を適切に意味の違いで区別し、
(3) 仮説・検証を繰り返しながら関係を詳細に見極めていく。
(4) その過程では、適宜、(1)?(3)のプロセスを行ったり来たりして徐々に詳細度を深めていくというアプローチがポイントになります。
(1)関係の両端を同じ視野の中に取り込む
関係という結びつきは、結びつきの「両端」を同じ視野に入れて思考しないと、そこにある問題や改善策の本質を見極めることはできません。
例えば、ITCケース研修で、「事業ドメインの定義」として、3つの○を三角に配置し、○の中に「顧客」、「顧客のニーズ」、「自社のコンピタンス」が何たるかを書き込み、その下に「事業価値」を書く様式を使って、現状やあるべき「事業の成立関係」の確認を行いました。
ここに出てくる、例えば「顧客」は、多くの場合は「当社の商品・サービスを購入してくれる存在」のことと考えて問題はないのですが、当社から商品・サービスを購入した顧客が、それを使って自社の商品・サービスを作り上げ、それをさらに先の顧客に販売しているような場合には、この認識では事業の本質を見損じてしまいます。当社の顧客が販売する商品が売れなければ、当社の商品を買ってもらえなくなりますので、当社の顧客の顧客も「顧客」に含めて事業の成立関係を考察する必要があります。このように、まず、事業の成立関係全体の「関係要素」を同じ視野の中に、漏らさず取り込み、思考の俎上にあげることが、正しい答えを導き出すための第一歩になります。
では、どんな時に、どこまでの関係を視野に中に取り込まなければならないのでしょうか。私は、ここまででよいかなと思う範囲があれば、その境界を一歩外に踏み出してみて、そこを関係の中に含めて考察すべきかどうかを評価し、含めるべきとなれば、さらにもう一歩外に踏み出してみて・・、そこが「関係なし」と確認できれば、そこまでの範囲で考える、というやり方をとっています。
(2)要素を適切に意味の違いで区別する
例えば「顧客」について、これを「買ってくれれば皆顧客」として、ひとかたまりで「顧客」と扱ってしてしまうと、おおまかな関係しか見えてこず、主要成功要因のヒントも見つけ出しにくくなります。「顧客」を例にとれば、どんな動機で買ってくれるのか、どのくらい買ってくれるのか、どんな頻度で買ってくれるのか等、いろんな意味で事業に関係していますので、意味が違うところはできるだけ区別して考察を試みることが、事業の本質に近づくポイントになります。
どこでどう意味が違うか、については、なかなか事業の実態をながめることですぐに見つけられるということにはなりません。「ここにはこんな意味の違いがあるのでは」いう仮説を立てて、意味の違いがあるかどうかを検証して、それを確認していくアプローチがポイントになります。もちろん、区別すればよいという話しではないので、違いが検証できなければもとにもどします。
ところで、どこまで区別すればいいのでしょうか。ここの作業の最終目的は、「これはやめよう」「これは改善しよう」というような判断をすることですから、良かったり悪かったりする「これ」が、別のものとして区別できる単位に分解されていることが適切だということになります。例えで言えば、白(良い)と黒(悪い)が混ざった石から黒い部分を取り除こうとすれば、白の粒と黒の粒が分かれる程度(=適切な詳細度)に石を砕く必要がありますが、それと同じようなことをやろうということです。
ここで、皆さんはもうお気づきだと思いますが、この適切な詳細度は、(3)での関係を詳細に見極めることをやってみないと決まりません。手順の表現で、便宜的に(1)(2)(3)の順番をつけましたが、これは(1)を終えてから?を、?を終えてから?をやると言う意味ではありません。(4)に記述したように、「(1)(2)(3)を行ったり来たり」しながら徐々に詳細度を深めていくのがおすすめの方法です。
(3)仮説・検証を繰り返しながら「関係」を詳細に見極めていく
例えば「事業ドメインの定義」では「顧客」、「顧客のニーズ」、「自社のコンピタンス」の関係を確認しますが、「顧客」、「顧客のニーズ」、「自社のコンピタンス」のそれぞれを構成する、適切な詳細度でくくった要素に着目して、(2)と同じく「これはやめよう」「これは改善しよう」等が区別できる詳細度で、「関係」の現状とあるべき姿を見極めます。
ところで、関係の現状やあるべき姿を見極める場合に、「見落としなく詳細にキチンと現状を調査すれば、課題と解決策がおのずと見えてくる」という思いこみには注意が必要です。人が見て分かるのは、その人が持っている知識に照合できることだけですので、関係を正しく識別したり、その善し悪しを判断するには、例えば、「この関係はこうではないか」という仮説を立てて、現実をながめて果たしてそうなのかどうかを検証するという、仮説・検証の繰り返しが不可欠になります。仮説は経験がなければ立てられませんので、ここはITCが経験を生かせる場面になります。
また、安易なベンチマーキング(物まね)や、成功事例や失敗事例から抽出された成功要因、失敗要因のつまみ食いで関係を見極めたつもりになるのも失敗のもとです。そもそも、成功要因の場合は、その分析が適切なものでなくても、成功のお祭りの中で改める機会を失いそのまま残ったり、失敗要因の場合は、失敗者が黙して語らないことなどにより、どちらも正しい教訓が継承されにくいのです。
(4)必要に応じて(1)?(3)のプロセスを行ったり来たりする
(1)(2)(3)のプロセスを仮説・検証で繰り返しながら、徐々に詳しく要素間の関係を見極めていくアプローチが、結果的には一番の近道になるように思います。
●事例にあてはめてみる
ここまで述べてきたことを、事例にあてはめるとどんな感じになるのか検証してみました。
IT百選に選ばれたケースを借りて、お話しを作って見ました。お借りしたケースは、部品の製造販売で、ロングテール(ニッチ商品を幅広く販売することで売り上げを増やす)に狙いを定めて、多品種微量販売に特化したことが成功をもたらしたと思われるケースです。ただし、以下のお話は、多分に私の想像の産物ですので、ケースの企業名は伏せさせていただきました。
(1)関係の両端を同じ視野の中に取り込む
事業の終点を販売完了代金回収とし、購買者がその部品を何に使うかは知ったことではない、と考えると、顧客=購買者というひとつの定義ですんでしまいますが、このケースでは、自社のマーケットを、大量購入者でなく微量購入者に絞り込んでいます。大量購入者の存在は、当社の販売量を見れば分かることで、そこから、価格勝負になりがちで生産力の低い中小企業が有利に戦えない大量購入者相手の市場から手を引く戦略は導き出せても、そこには、微量購入者に特化する理由は見いだせません。
微量購入者のプロフィールを分析して、グループ分けし、それぞれのグループに対する戦略を構築するには、事業の成立関係を、販売先までで終わりとせず、同社から部品を購入する顧客が、購入した部品をどのように使っているかまで広げて考察することが必要だったはずです。このケースではそれをきちんと行っていることがうかがわれます。私は、このことが、的確な主要成功要因の把握の第一歩になったと見ています。
(2)要素を適切に意味の違いで区別する
微量購入者をそのくくりのままでいくら眺めても主要成功要因は見えてくるものではありません。このケースでは、購入者が部品をどう使うかにまで関心が払われていたので、購入した部品の使途を調査して、微量購入者のなかに「保守のために使う顧客グループ」とか「試作のために使う顧客グループ」とかがあることはすぐに認識されるに至ったのではないかと思います。
そこで、微量購入者をとりあえず「保守グループ」と「試作グループ」に区別して、(3)の検討をやってみると・・、(3)にいろんな見極めの例をあげていますが、やはり保守グループと試作グループでは違う関係が存在しており、これは区別しておくべきだということが検証できたと思います。
さらに作業を進めていけば、「試作グループ」の中に、「大学などの研究機関で、発明に近い新しい機械の試作」や「メーカーが行う新商品の試作」などのグループがあり、これは区別して対応した方がよい、とかになるかもしれません。
(3)仮説・検証を繰り返しながら「関係」を詳細に見極めていく
保守に使われる部品は、過去に作られたことがある部品ということになりますから、設計図を保存しておけば改めて設計からやらずに対応できるだろう。そうだとすれば、ここでは、システムによる設計図情報の管理などの対応が有効になるだろう・・。
保守部品は、量は多くなくてもリピート需要が期待できます。少量なら製品在庫を持って顧客の要求へのレスポンスをよくするのも競争優位につながるかもしれない。とはいえ、製品数は多く、製品での在庫の負担は大きい。一定数量以上は、原材料で在庫を持ち注文に応じて製造して納品する方法を徹底すれば在庫コストを減らせるだろう・・。
試作に使われる部品は、保守部品と同じものも使われるだろうが、それだけではすまずに、必ず、新たに設計しなければならないものが出てくるはず。この分野は、当社の今の技術力をITで強化し、顧客との商談をネットワークで進められるような仕組みを作れば、十分な競争優位が構築できるだろう・・。
保守部品も試作部品も、需要は、あちこちに散在していて薄い。ただし、値段がたたかれることは少ない。需要先に当社の存在を知ってもらえさえすれば、散在して薄い需要からでもある程度のボリュームの注文を吸い上げられるはず。今の当社は、知ってもらっているところには知ってもらっているが、全国区的な知名度はまだない。全国的により多くの需要先に当社の存在を知ってもらうにはインターネットが生かせるだろう。但し、保守ニーズのある顧客グループと、試作ニーズのある顧客グループは性格が違う。顧客への訴求方法は、それぞれの性格に合わせる必要があるだろう・・。
より特殊な部品における当社の競争力は高く、特殊部品の方が販売単位あたりの利幅は大きいが、当社の今の事業規模からすると、完全に軸足を特殊部品の世界に移すのはリスクが大きすぎるかもしれない。ロングテールを狙うが、完全に特殊品に特化することはしない方がよいかもしれない。一般レベルの部品も大事な品揃えと考えるべきだろう・・。
――このように関係を細かく見極めていくと、戦略のためのいろんなヒントを得ることができます。ただし、それが本当に成功をもたらしてくれるのかどうかは、ひとつひとつ慎重に検証する必要があります。
もちろん、その検証は、「?に聞いた勝利の方程式にぴったりあっている」とかでは駄目です。定理、公理のレベルで正しいかどうかを検証しないと検証にはなりません。また、自分だけの思いこみではなく、関係者のすべての立場を想像して、その立場で検証してみることが必要になります。